2025年のアートフェア東京では髙橋健太、野田怜眞による2人展を開催いたします。
等身大の目線で切り取った断片的な街の風景を伝統的な日本画画材とデジタルのドットの集積のようなイメージを用いて再現する髙橋健太と伝統的な漆の技法を使い、自然の造形美とそこに宿るポジティブなエネルギーを象徴的に表現したバナナシリーズ等で注目を集める野田怜眞。
伝統的な技法と現代的な視点が交わる、気鋭の作家の競演です。
Artist Statement
髙橋健太
あるポスターを購入した。コンピューター黎明期の1960年、Leon Harmon、Ken Knowltonによって制作された”computer nude”のシルク刷りだ。この作品は記号の集積で作られ、まるで網戸に描かれているような解像度の低いビットマップ画像だが、今日に至るまでの全てのデジタルイメージの始祖とも言える作品である。日夜情報の多さに辟易している自分にとってその情報量は、鑑賞者が想像することができる余地を残してあるような心地よさがあった。
日照を獲得するために窓を取り付ける。網戸やカーテン、ブラインドで外からの目線を隠す。一見矛盾しているようだが日光や開放感、換気(外からの恩恵)と遮光、プライバシー(外からの防衛)のバランスという点で成立している。これらはすべて部屋(内側)をより快適にするために設計されていることだ。
絵画は(時間や空間の移動も含め)空想を、またはより良い現実を視覚的に保存するという点で”異世界への窓”としてその立ち位置を成長させてきたと考えている。空間が切り取られたようにそこにあるはずのないイメージが投影されるものを異世界への窓とするならば、その役割は現代で使われる様々なモニターにも適用できる。高繊細になったラスタ画像はアナログによる出力と見分けがつかないレベルまで到達しており、マテリアルを神格化しなければ窓としての絵画の存在意義は維持できなくなってきているだろう(故に今日に至るまで様々な思想やメディアを加え、絵画は存続してきた)。
加えて現代におけるモニターはインターネットの発達により鑑賞するだけではなく、その世界にアクションを起こしイメージを変質させることができる。異世界への窓がリアクションをするようになったことで、眺めがさほど変化することのない固定された窓を自室から見るような行為(内→外)から、自らが街をハイスピードで移動しながら他者の家の窓を覗き込むような行為(外→内)へと移り変わっているのだ。
今展示では、二つのシリーズを配置、または隣り合わせて展示する。
様々なマテリアルに印刷されたラスタ画像の上に網戸のように糸を引き、外から覗く窓として構成したデジタルイメージと、明治維新が齎した産業革命と日本画の興り、現代日本の都市風景の象徴として日本画材を用いて制作した縞鋼板のシミュレーション。それぞれが内側と外側の世界を担当し、また展示空間で再配置されることで自身が考える絵画性への追求を試みた。
デジタルイメージが生まれてから半世紀以上が経ち、人間の手を介さずともイメージを生成できる時代になった。もし絵画の”異世界への窓”としての役割が終わったとすれば、絵画性とはやはり身体性に帰結し、身体性こそ人間性と言わざるを得ないだろう。
デジタルを元請とし、人間が自らの身体を依代とした機械へと成り下がることで、これを企図した自分自身が人間性を産み出せることを期待している。
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野田怜眞
「時間をかけて追及していかなければいけないものは、気が付かないうちに無くなってしまう。」
自然災害が多いことから、日本では有事の際に持ち運べるようなサイズや軽さで作られた文化財が多く作られていました。
その必要性や需要、もしかしたら日本人のまめでせっかち、細かい作業が好きで丁寧な仕事を好む性質もあいまって高品質で繊細な文化遺産や伝統・技術が受け継がれてきました。
現代社会ではその物や事自体を掘り下げて楽しむというよりも話題性や短期的な刺激による快感がもてはやされているように感じます。そして、長い歴史の中で培われてきたものが少しずつ、気が付かないうちに失われてきています。
何百年もかけて研ぎ澄まされた知識と技術を残したい。
日本の文化や芸術、漆芸を現代的にブラッシュアップした作品を通して自分たちの国の文化、日本の文化に目を向けてもらえたらと考えています。
自然の持つ生のエネルギーを上昇や成長の象徴として偶像化させたバナナシリーズでは、仏像の光背から派生したアイディアをもとにバナナから放たれるポジティブなエネルギーを表現してきました。
そして、新作「Vanana理」ではバナナを錆びつかせ華やかさとは対極とすることで自然の摂理を表現しています。
当たり前のようにその恩恵を受けているのにもかかわらず、その存在に気づく事もないまま、ただ大量消費していく。それはきっとアートや工芸の世界の中だけではなく私たちの日常生活でも起こっていることではないでしょうか。
私の作品が、自然の持つ力を改めて感じたり、時の流れの中で失われていくもの、忘れられていくものに思いをはせるきっかけとなればと思います。
2025年03月07日(金) - 2025年03月09日(日)
【会期】3月7日(金) 11:00-19:00
3月8日(土) 11:00-19:00
3月9日(日) 11:00-17:00
【会場】
東京国際フォーラム・ホールE/ロビーギャラリー(東京都千代田区丸の内 3-5-1)
靖山画廊ブース:N049