Exhibitions

私たちが何かを純粋に見るということは難しいことが多々あるかと思います。
知識や経験、価値観や思い込みによって出来たフィルターを通して、「ものの視え方」は人によって変容するからです。石原葉の作品はそんなフィルターを通して見た世界を表現しているのです。鑑賞者は二重に眼鏡を掛けたように、ぼやけた視界に戸惑うでしょう。しかし、その体験は誰もの視界にフィルターが存在することの再認識に繋がります。

2020年5月、コロナの影響で急遽、オンライン展示となった「石原 葉-Who-」を画廊にて開催いたします。

■作家ステイトメント
「Who」
私たちが《誰か》と出会うのは、思いの外、難しい。
誰か、とは代替不可能なその人そのもので、
大戦下を生きたハンナ・アーレントはそれを《who=誰か》と呼びました。
属性でもなく、思い込みでもなく、日常の裂け目に一瞬現れる、掛替えのない誰か。
それは、彼らを見つめる私たちの視線が見なし、気づき、出会うものなのでしょう。
その姿を捉えたくて、描き続けています。

■作品コンセプト
私にとって作品を描くプロセスはとても大事なものです。一度描いた人物や風景を、や
すりや薬剤を使って削ったり変容させていったりする。それは、私たちの思い込みや先入観といった無自覚な視線が、見ている対象を変容させていってしまうこと、摩耗させていくことを表しています。対象を知れば知るほどに、私たちは「わかっている」と思い込んでしまいますが、その思い込みに目を向けることで、他者について考えることが出来ないかと考えているからです。

Who シリーズ
《who=誰か》とは哲学者のハンナ・アーレントが、属性で見做される存在である《what=何か》と対比させて名付けた掛替えのない存在のことです。情報過多の現代において、私たちはとっくに情報を処理することが出来ず、人々やモノを分かりやすくカテゴライズして生活をしています。しかし今一度、絵画を通して考えることが出来ないでしょうか。絵画というユニークピースは、掛替えのない瞬間を、そのような瞬間として留めることが出来ないか、そう考え、人物を中心としたシリーズとして展開しています。

Note to self シリーズ
私にとって、描く行為は留める行為です。備忘録という名の通り、あまりに些末で忘れてしまいそうなものを描いています。

無効信号 シリーズ
目の前の人が怪我をすると、自分が傷ついていないのに痛みを感じることがあります。それはミラーニューロンという機能のせいで、一方、その痛みを忘れるための「無効信号」という機能も持ち合わせています。どうやら私たちは他者と時に繋がり、時に切り離すことが出来るようです。そこで繋がりや切断を引き起こすのはシチュエーションにあるのではないかと考え、描いた作品群です。

veil of ignorance シリーズ
《veil of ignorance》とはジョン・ロールズの思考実験を基に構想したシリーズです。正義のルールを決める際に皆が無知のベールを被れば、自身が弱者であることを想定し、ルールを決めるだろうというロールズの考えに対し、果たして現代において共通した弱者像は成立するのだろうかと問いをたてました。ここに描かれる人々は、それを見る人々によって何者かに、たらしめられている人々です。

2020年08月21日(金) -  2020年08月29日(土)

11:00-19:00
※土・最終日は17:00まで
※日曜休み