一見、大きな紙で作られた折り紙の作品。
若き彫刻家、白谷琢磨は木彫作品としてこの精緻な造形を作り上げています。
シンプルな構造から特定の生物を想起させる「折り紙」という手法に興味を持った白谷は、その華奢な造形を檜や漆、岩絵の具といった、時代の風雪に耐えうる素材で制作することにより、未来へと続く祈りに昇華させようとしています。
「祷鶴」
2024年
h42×w51×d42cm、檜、漆、岩絵具
日本には見立てという独特の文化が根付いており、元の事象の再現に留まらない奥行きや余白を持たせた表現が可能です。
中でも紙を折るという制約の中から特定の動物を想起させる形に至る折り紙に強く興味を惹かれました。
シンボリックで無機質で、構造も明快ながら、私たちのいる世界とは別次元の世界から来たような佇まいです。決してリアルではなく、あくまでそのモチーフを想起させるに留まるところにどこか別の世界を予感させる力を秘めています。
例えばお盆の時期にきゅうりとなすを使って馬と牛に見立て先祖の霊を乗せる精霊馬のように、常世と現世を行き来するものには何かの代替品、仮の姿を与えられます。
現世で仮の姿を纏うということは本当の姿が常世にある、ということの暗示のようです。
見立てにより単なる動物の表現ではなく、異世界にまで意識を飛ばすことが可能になります。
折り紙による直線的で簡素な形態も目の前のモチーフの再現に留まらず、そういった別の世界を想起させるに至り、それは信仰や祈りに近いものだと解釈しています。
折るは祈る、または降る(降りる)として降霊術のような儀式的な側面を兼ねているようでもあります。私はさらにその奥に近づくために彫るという行為を通して、神仏に対するイメージと重ねた制作をしています。また日本に古くから伝わる檜、漆、岩絵具など長い時間の流れに耐えうる素材、技法を使うことで、それらの偶像化を試みています。
折り紙の鶴には日本人としてとても多くの言葉を感じています。祈り、平和、自由、象徴的すぎるほどにいろんな願いが込められておりすぐには制作する気になれませんでした。日本では大規模な自然災害等が起きるたびに寄付やボランティアなど様々な支援活動が起こります。小学校では今でも千羽鶴が折られるなど、身近で手軽な祈りの捧げ方となっています。千羽鶴の起源は被爆により白血病を発症した佐々木禎子さんに送られた折鶴だと言われています。千羽折ったら病気が治る、という慰めに近いまじないを貞子さんは実践したそうです。折鶴は祈りや願いを肩代わりして天に届けてくれる、神の使いのような特別な存在なのです。
私も作家という立場からできることを考えた時に、鶴をモチーフとした作品のコンセプトに被災地支援を組み込むことを決めました。(鶴をモチーフにした作品の売り上げの一部は被災地地域への復興支援金として寄付されます。)
羽を広げ、天を仰ぐポーズは本来折り紙では再現できないポーズです。
生涯で千羽作ることができれば、私の祈りもどこかへ届くでしょうか。
2024年10月18日(金) - 2024年10月29日(火)
11:00~17:00※土曜は完全予約制となります。
※日・祝休み
〒104-0061 東京都中央区銀座5-14-16 銀座アビタシオン2階
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