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ギリシャ神話の中に「シシュポスの岩」という話がある。
シシュポスという男は神々を欺いた罰として、巨大な岩を山頂まで運ぶことを命じられた。しかし山頂の目前で岩は谷底まで転がり落ちてしまうので、これを永遠に繰り返さなければならない、というものだ。転じて「とてつもない徒労」を意味する言葉としても用いられる。
フランスの作家、アルベール・カミュはこのシシュポスの姿を、いずれ皆死んでしまうことを知りながらも生き続ける人間そのものの姿として肯定的に捉え、日本の哲学者、九鬼周造は、本質的には無意味な物事に取り組み続ける姿に人間の自由意志と尊厳の本質を見出している。

ワタベの作品が生み出す感動もこれに通じているように思える。
彼の作品に登場する、弱々しく頼りない「言葉を持たぬもの」たちは、いつもそれぞれにモノやコトに対して黙々と向き合っている。そして、我々には彼らが感じている価値を直接理解することは難しい。
しかし、他の誰でもない自分自身で在り方を決定し、それを遂行しようとする―
彼らのそんな姿勢に鑑賞者は胸を打たれるのではないだろうか。

そこに言葉はなくとも、確かな意思がある。

「ひとりじゃない」
2023年
h91×w73cm
木製パネル、油彩

 

言葉を持たぬもの(羊人)たちは、身を寄せ互いを尊重し合い、
それぞれの心の奥に秘めた思いを守っています。

他者からは理解されない無価値なものであったとしても、
何人たりとも踏み入る事のできない領域があるのです。

2023年04月19日(水) -  2023年04月27日(木)

※土曜は完全予約制となります。
※日・祝休み

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