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松浦延年の作品に最も特徴的なのは、その滑らかな光沢のある表面だろう。
その艶やかな質感は、静かに佇む水面を思わせる。その向こうでは底から湧き上がるように微妙な色彩が混じり合い、さらに奥底に筆跡がうっすらと確認できた時、この作品が「絵画」であることを再認識させられる。

近代からの抽象画の傾向に「冷たい抽象」と「熱い抽象」という概念がある。前者はモンドリアンなどの作品に色濃く見られ、画面から要素を削ぎ落とし、幾何学的な表現による絵画の純粋化を目指したものである。後者はデュビュッフェやカンディンスキーらのように積極的に肉体の動きを反映させる、あるいは自由な色彩を用いるなどで、人間の情念を強く表現した作品を指す。

抽象表現において、この二つの概念は対立しているわけではなく、両者の要素を併せ持つ作品もある。松浦の作品がまさしくそれである。
沸騰する色彩を透明で怜悧な表層が抑え込むように、きわめて「熱い抽象」に寄りながらも、その外側に主知的な「冷たい抽象」を纏っているように感じられる。その在り方はまさしく人間の在り方を反映しているようで非常に興味深い。

偶然の出来事の中から見出した美しさを求め、愚直なまでにひとつの表現を追及しつづける松浦の数十年にわたる挑戦から生まれた作品は見る人に崇高な体験をもたらす。

松浦延年の純粋な美の世界をご体感ください。

「Yellow 558」
2022年
100×72.7cm
アクリル、油彩、レジン

 

新しい事に挑戦しようとするとき、偶然の出来事が思わぬ成果をもたらすことがある。

今では昔話であるが、画用液に溶かした赤い絵具を白トタンの上にこぼしてしまった。
それを眼下に見た時驚いた。何んとも美しかった。筆跡などなく光る赤い液面に見入った。
これが液体絵具を使う切っ掛けとなった。

画用液に絵具を溶かし白トタンを貼ったパネルに流す。
硬質な筆跡は消え透明感のある深い赤が現れてくる。微妙に異なる様々な深い赤が出現した。
試行錯誤しながらしばらく制作は続いたが、それは長くは続かなかった。

描いてから時間が経つにつれて、全面を覆う縮緬皺、亀裂、剥離、夏期の溶解等、次々にトラブルが生じてきた。
時には数年を経てから変形してしまうものまででてきた。
思い悩んでいるうちに画用液は天然樹脂を多く含むので、それを人工のレジンに変えてみたらどうかと思った。多くの種類の樹脂で試みが始まった。度重なる失敗や落胆を経て徐々に現在の絵画に近づいて行った。

現在では絵具を透明な樹脂に薄く溶かし、それを何層にも塗り重ねて以前より深い奥行きのある画面になってきた。色彩という物質そのものに迫る絵画を目指している。

2022年12月09日(金) -  2022年12月21日(水)

11:00~17:00
土曜は完全予約制となります。
※日・祝休み

〒104-0061 東京都中央区銀座5-14-16 銀座アビタシオン2階
Tel:03-3546-7356
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