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ここで「描かれている」のは緑青色の空と並び立つ木々だ。しかし画面全体は深い闇に覆われ、かろうじて画面中央に葉の落ちた枝を確認できるのみである。
描かれている、という表現は通常の写真作品を評する際には適切でないかもしれない。
しかし、写し取った風景を素材に、組み合わせ、編集する丹野の制作手法を鑑みると、この作品はやはり、丹野によって「描かれた」写真に他ならないのだ。

そうした手法も相まってこの作品は丹野の内省的な要素を多分に含んでいるが、単なる一個人の心象風景の描写を突き抜け、もっと奥深く、根源的なものへのアプローチを試みている作品だと言えるだろう。結果としてそれは日本的な美意識―「詫び寂び」に強く接近しているように感じられる。
ここで描かれているのは閑寂な枯れた風景だ。しかし、それは丹野の丁寧かつ膨大な手つきの集積の結晶であり、その中に残された精神性を感じずにはいられない。
静けさの中にあって優美さを失わない丹野の作品は、幽玄の域にまで達する可能性を秘めている。

「Silence, gloomy, the world before the story was born. 1」
2022年
h728×w1030 mm
Giclee Print、アクリルマウント

 

心の底に漂う思念と記憶の世界、パンデミックによって撮影というフィールドワークを封じられた帰結として「風景」は外ではなく自己に内在する観念の具現化に向かった。静寂の満ちた陰鬱な頭の中の世界は、物語が生まれる前の世界であり、あるいは物語の終焉以後の一切の登場人物のいない純粋な世界である。この先にあるものが希望であれ破滅であれ、写真という技法は変容と存在意義の変遷を繰り返していく予感を感じている。

2022年11月07日(月) -  2022年11月22日(火)

11:00~17:00
土曜は完全予約制となります。
※日・祝休み

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Tel:03-3546-7356
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